海洋情報業務
本項は 「海上保安庁パーフェクトガイド」掲載用として整理したものをもとに掲載しており、更新なき場合、2005年3月のデータにもとずいています。
また、掲載出版内容と異なる部分も多々あります。
新規作成日:2005年5月7日以前を最終更新日としているものは、準備資料のまま内容の更新がないことを示しています。
海洋情報部の歴史と業務
海洋情報業務は海図の刊行をはじめとして、海の地図(海図)作りに必要なさまざまな仕事を含んでおり、現在その基本となる法律は昭和25年に制定された水路業務法である。
水路業務法では、海図を作製する際の基礎となる水路測量の基準(経緯度の基準、高さや水深の基準)、海上保安庁以外の者が海上保安庁の刊行する水路図誌と類似の水路図誌を刊行する際の規則などを定めている。
海洋情報部の歴史
海洋情報部の前身の水路部は、約130年ほど前の明治 4年(1871年)に兵部省海軍部水路局として東京の築地に設置された。
翌年の明治 5年には初めての海図第一号「陸中國釜石港之図」が刊行された。
明治19年(1886年)には、海軍水路部と改称している。
第二次世界大戦の終戦後、海軍は廃止され、水路部は運輸省の外局として存続した。
昭和23年(1948年)に海上保安庁の発足とともに水路部は海上保安庁に属することとなった。
平成14年(2002年) 4月1日 水路部は、海洋情報部と改称し、今日に至っている。
この措置は、海上保安業務の近代化の一環として、水路業務を、広く海洋情報全体を扱っている実情と将来にあわせたためである。
- 1871年 明治 4年 9月12日 : 兵部省海軍部水路局(築地・兵学寮内)
- 1872年 明治 5年 4月 5日 : 海軍省水路局
- 1872年 明治 5年 11月13日 : 海軍省水路寮
- 1876年 明治 9年 9月 1日 : 海軍省水路局
- 1886年 明治19年 1月29日 : 海軍水路部
- 1888年 明治21年 6月27日 : 水路部(海軍の冠称を廃し水路部と改称)
- 1910年 明治43年12月16日 : (築地海軍用地に水路部庁舎完成、これに移転)
- 1921年 大正10年 6月 : (国際水路局IHBに加盟)
- 1923年 大正12年 9月 1日 : (関東大震災のため庁舎・測器・資料の大半焼失)
- 1945年 昭和20年 3月10日 : (大空襲により施設の大半を焼失)
- 1945年 昭和20年 11月29日 : 運輸省水路部
- 1948年 昭和23年 5月 1日 : 海上保安庁水路局
- 1949年 昭和24年 6月 1日 : 海上保安庁水路部
- 2002年 平成14年 4月 1日 : 海上保安庁海洋情報部
海洋情報部の組織
東京にある(本庁の)海洋情報部には企画課、技術・国際課、海洋調査課、環境調査課、海洋情報課、航海情報課がある。
企画課では総合調整を行うほか、測量船管理室では、本庁管理の測量船の運行管理を行っている。
技術・国際課には、海洋研究室、地震調査室、火山調査官、国際業務室などがおかれている。
海洋調査課には、航法測地室、大陸棚調査室がおかれ、水路測量や大陸棚の調査を管理する。
環境調査課には、漂流予測管理官、海洋汚染調査室がおかれ、海洋環境に関する調査や海象の観測を行っている。
海洋情報課には、沿岸域海洋情報管理官がおかれ、日本海洋データセンターとして海洋情報の収集、管理、提供、国際交換が行われている。
航海情報課には、水路通報室、海図維持管理室がおかれ、水路図誌の刊行や最新情報の維持管理が行われている。
また、地方組織として、北海道から沖縄まで11の管区海上保安本部にも海洋情報部がある。
ここでは、各管区内の水路測量や、水路通報などの業務を行っている。
その他、4つの水路観測所(天文観測3ヶ所、地磁気観測1ヶ所)、27ヶ所の験潮所(潮汐観測所)、昭洋(3,000トン)・拓洋(2,600トン)・海洋(550トン)・明洋(550トン)・天洋(430トン)の大型・中型の測量船と20m型および15m型の測量船がある。
海洋情報部の主な業務
水路測量・海象観測・天文観測・測地測量等の測量・観測業務、海図・特殊図・海の基本図等の編集・刊行、水路誌・潮汐表・天測暦等の編集・刊行、水路通報の発行・航行警報の発信、日本海洋データセンター業務、海の相談室業務、水路業務に関する各種の研究などを行っている。
測量・観測業務
- 水路測量
海図の基本ともなる、海洋情報を集めるため、全国の海洋の測量を行っている。
海図、水路誌などの水路図誌は、航海者が安全な航路を効率的に航行するうえで必須のもので、海図等には最新の情報が記載されていることが大変重要となる。
そのため海洋情報部では、日本各地の港湾の現状を常に把握し、水路図誌等の最新維持を図るために各地の港湾の進展に対応した港湾測量、沿岸測量や補正測量を行っている。
これらの業務は、測量船が行っている。
- 地磁気測量
船舶や航空機が、磁気コンパスを使ってその進路を正確に取り、安全な航海が出来るように、すべての海図や航空図には磁針の指す方向が記載されている。
磁針の指す方向は場所によって異なり、また、年々変化するため、八丈水路観測所で地磁気の連続観測を行ってその変化を正確にとらえると共に、5年毎に全国的な地磁気測量を行って日本近海の地磁気図を作成している。
これらの成果は、地震予知の研究などにも役だっている。
- 海上重力測量
重力の異常を調べることによって、地球の形状や地下構造を明らかにすることができる。
このため、測量船により海上における重力の観測をおこなっている。
- 海洋観測業務
太平洋の北西縁に位置する日本の近海では、黒潮(日本海流)と呼ばれる世界でも有数の強い海流や、豊富な海産物の恵みをもたらす親潮(千島海流)、日本海やオホーツク海といった縁辺海に流入する対馬暖流・宗谷暖流等の様々な特徴が見られる。
この様な環境の下、我が国では古来より漁業や海運業等の海洋活動が盛んであるが、一方で、これらの海上活動に密接な関連を有する海流や海洋構造等については、いまだに未知の部分が多いと言わざるを得ず、海洋情報部では、海上交通の安全に資する海流等の現況把握のため、また、それを科学的な見地からサポートする調査、研究のために様々な観測を実施しているほか、最近では、海難事故や、それに伴う油等の流出に的確に対応するため、より精度の高い漂流予測を実施するためのプログラム開発、データ収集体制の強化を図っている。
- 天文観測
日本の天体観測の基礎となる基本天体暦(天体位置表)を編さんし、さらに、これをもとにして航海暦(天測暦、天測略暦)などを刊行している。
天体の位置を推算するために必要な天文観測は、各国の天文台が協力して行っているが、海上保安庁は主に星食観測を担当し、これに関する世界の 中央局業務を行っている。
これらの業務は、水路観測所で行っている。
- 潮汐観測
全国29か所に験潮所を設置し、長期にわたり潮汐の観測を実施している。
現在、そのデータはリアルタイム験潮データ集中監視システムにより集積され、一括集中監視やホームページに掲載(潮汐・潮流リアルタイム情報)を行い、広く一般に提供している。
潮汐観測の成果は海図の最低水面の維持管理、潮汐表の精度向上及び推算の諸元に資する潮汐調和定数の算出、地殻変動監視、高潮・津波等の防災情報として広範囲な分野で利用されている。
- 潮流観測
船舶通行量の多い海峡、水道、港湾等において潮流観測を実施し、潮流予報を行うほか、潮流図の刊行や海図へ記載して船舶の航行の安全に寄与するとともに、ヨットやダイビングなどの海洋レジャーにも利用されている。
ホームページ上(潮汐・潮流リアルタイム情報)では東京湾・伊勢湾瀬戸内海沿岸及び九州沿岸の主要な地点の流況概要を当日分について1時間ごとに掲載している。
- 大陸棚の調査
海洋法条約に基づき、我が国の大陸棚を領海基線から200海里を超えて延ばす場合には「国連の大陸棚の限界に関する委員会」に、遅くとも平成21年までに、我が国の大陸棚の限界が領海基線から200海里を超えて延びることを証明する、科学的・ 技術的資料を提出し、承認を受けなければならない。
そのため、海洋情報部では、大型測量船を使用し、我が国周辺海域の大陸棚調査を行っている。
しかしながら、提出資料に必要とする調査項目が拡大したため、現有の体制では、十分な調査が間に合わない可能性がでたため、民間調査機構とも協力する体制をとっている。
- 海洋汚染調査
海洋汚染調査は、海洋汚染の防止及び海洋環境保全のための科学的調査として行っている。
調査項目は、海水(石油、PCB、重金属、実用塩分、pH、DO、COD等)、海底堆積物(石油、PCB、重金属、有機錫)などである。
情報提供業務
- 海図(航海用海図・特殊図・海の基本図等)の編集・刊行
船舶が安全で効率的な航海ができるための海図を作っている。
海図は、船舶の航海の目標となる岬などの海岸地形や灯台などの航路標識の配置などから海図の包含区域、縮尺を検討して編集・作成される。
海図の編集は、測量成果、海潮流の観測成果などの資料を基にして国際的にきめられた記号や表現法に基づき、正確でしかも使いやすいように行われる。
最近では、海図の編集・作成にコンピュータを利用して行われている。
海図には航海に必要な水深、灯台の位置、海潮流の速さや方向などが詳しく記載され、航海者にとっては欠くことのできないもので、ごく一部の小型船舶などを除く全ての船舶に対して、海図を備え付けることが義務づけられている。
- 潮汐表の編集・刊行
主な港の毎日の高・低潮の時刻とその時の潮高および主要な瀬戸・狭水道の毎日の転流時刻・流速の最強時刻とその時の流速の予報値が掲載されている書籍。
潮汐とは、月および太陽の引力によって、海水が周期的に満ちたり引いたりすることをいい、潮の満ち引きを引き起こす力を潮汐力(起潮力)という。
潮汐力は月と、地球,太陽と地球の引力、それに加えて地球と太陽、地球と月の公転運動によって引き起こされる遠心力によって、海の水が引き寄せられる力のこと。
この作用により、干潮、満潮といった海面の上下が発生し、港湾等の水深に影響することから、潮汐表が刊行されている。
- 水路書誌の編集・刊行
海洋観測、天文観測及び港湾調査等の成果を使用して水路書誌を編集・刊行している。
水路書誌は海図に表現できない港湾・航路・気象・海象の概要、航路標識の状況、潮汐・潮流の予報、惑星・恒星等の位置等についてそれぞれ刊行されており、海図の参考書として利用されている。
水路書誌の最新情報維持のため、国内の水路誌、灯台表及び航路指定(IMO )は、刊行後も最新の内容となるよう、それぞれ追補・追加表・さしかえ紙を発行している。
・水路誌
航路、港湾、目標、気象、海象などを文章、図表、写真などで詳しく記述してある海の案内書。
本州南・東岸水路誌、瀬戸内海水路誌、北海道沿岸水路誌、シベリア東岸水路誌、南シナ海水路誌、マラッカ海峡水路誌などがある。
・特殊書誌
水路図誌目録、近海航路誌、距離表、航路指定(IMO)、灯台表(1〜3巻)、天測暦、潮汐表(1、2巻)、 図誌使用の手引きなどがある。
- 水路通報の発行
水路通報とは、海図などの水路図誌を最新のものに維持するための情報、並びに船舶交通の安全に必要な航路標識の変更、海上における工事・作業、自衛隊あるいは米軍等が実施する射爆撃訓練等に関する情報を、印刷物及びインターネットにより週1回発行しているものである。
印刷物の水路通報は、全国の水路図誌販売所から入手できる。
また、各管区においては、管区水路通報を発行している。
これは、管区海上保安本部の担任水域及びその付近の地域に密着した船舶交通の安全に必要な情報を、インターネット、FAX(ポーリング式)及びE-mailにより提供しているものである。
- 日本海洋データセンター
海洋情報部に設置されている日本海洋データセンター(JODC)では、我が国唯一の総合的海洋データバンクとして、国内外の海洋調査機関によって得られた様々な海洋に関するデータや情報を一元的に収集・管理し、国内はもちろん国際間において交換を行っている。
- 海の相談室
海上保安庁水路部に常設されている海洋情報の提供窓口である海事の専門家だけでなく、海洋レジャー関係者、海に関心を持つ一般の方々からの様々な質問(来場、手紙、電話、fax、e-mail)に応ずるほか、海洋データ・海洋文献、海図・海の基本図・潮汐表・水路誌などの水路図誌の閲覧、旧版海図等の複写サービスを行っています。また、海の相談室は東京ばかりでなく、各地の管区海上保安本部(全国で11箇所)にも設置されている。
研究業務
- 漂流予測モデルの高度化の研究
人工衛星による海面水温データ、海面高度データなどを解析して、水温、海流などの海況を把握する技術を高度化する研究や、観測データと海況モデルを組み合わせて精度の高い漂流予測を行うための研究などを行っている。
- 海底把握にかかわる研究
音響測深機、海底地震計、サイドスキャンソナー、音響測距装置などによる測量結果をもとに、海底地形の変化や海底活断層の状況及びプレート運動などを把握する研究を行っている。
- 測地・測量にかかわる研究開発
GPS(Global Positioning System)やレーザー測距などを利用した、海洋における高精度な測位技術の開発研究を行っている。
海洋情報部 庁舎
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HL02 拓洋 錨、船名板
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海洋情報部(水路部)車輌
人員資材輸送に使用される。
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新規作成日:2005年5月7日/最終更新日:2004年12月22日