海上保安庁 5つの使命
本項は 「海上保安庁パーフェクトガイド」掲載用として整理したものをもとに掲載しており、更新なき場合、2005年3月のデータにもとずいています。
また、掲載出版内容と異なる部分も多々あります。
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海上保安庁は、昭和23年5月、海上における人命及び財産の保護ならびに治安の維持を目的として、運輸省(現国土交通省)の外局として創設された。
そして、海上における犯罪の取り締まり、海難の救助、海洋汚染の防止等を行う警備救難業務、水路測量、海象観測、海図の作成、海洋情報の提供を行う海洋情報業務、灯台、灯浮標、電波標識等航路標識の建設、維持管理、海上交通の安全確保を行う交通業務など、海上の安全確保に関する業務を総合的に所掌する機関として、社会の要請の変遷に関する業務に的確に対応しつつ、その責務を果たしてきた。
その歴史
海上保安庁創設時はまだ平和条約締結前の占領下であった。
また、戦時中に敷設された機雷を掃海することも、海上保安庁の大きな任務のひとつであった。
昭和27年1月に韓国が宣言した「李ライン」による海洋上の国境線は、付近を操業する日本漁船にとって極めて重大なものであり、巡視船による哨戒によって拿捕防止に努めたが、韓国による拿捕は後を絶たず、昭和40年の日韓漁業協定締結まで実質的解決を見なかった。
平和条約発効に伴い、わが国の自主的防衛が求められた際、海上保安庁のもとに、海上警備隊(のちの海上自衛隊)が創設されたことも、海上保安の一面を覗かせる大きなものである。
こののち、海上公安局法が制定され、警備救難から海上防衛を一貫する組織への方向も見えたが、保安庁(後の防衛庁)が設置され、警察予備隊(後の陸上自衛隊)と、海上警備隊が保安庁隷下に独立し、海上保安庁は、軍事的色彩をまったく持たない組織として固まった。このときに、掃海部隊も、海上警備隊に移管されている。
昭和40年代に入ると、高度経済成長のしわ寄せたる、海洋汚染や海上災害が顕著化するようになってきた。
工業廃液のみならず、タンカー事故による油流出や火災など、災害規模の大型化が始まった。
そしてまた、マリアナ海域における漁船の大量遭難なども発生し、大型航空機(YS11)や、大型巡視船など、遠距離海難救助体制の整備が始まった。
昭和50年代に入ると、国際的な救難体制として「海上における捜索及び救助に関する国際条約」(SAR条約)が採択され、海上保安庁の広域哨戒体制の整備が求められ、大型ジェット機(ファルコン900)や、ヘリコプター搭載巡視船の整備が始まった。
昭和60年代に顕著化した不審船事件は、平成13年末に銃撃戦の後に該船自沈によりようやく逃走を阻止、引き揚げの後、北朝鮮の工作船と判明した。
これらの事案は、ほんの一例に過ぎないが、このように海上保安庁は、時代に合わせて広く日本の海上の安全を守ってきている。
その任務
海上保安庁を「海の警察+消防」とたとえる向きもある。
これは、決して間違いではないが、十分な説明でもない。
しいて言えば「海の警察+消防+国土地理院+道路公団」とでもいうところであろうか。
すなわち、「海の警察+消防」は警備救難であるが、このほかにも、安全な航海の元となる地図や道しるべ道案内も大きな任務であり、船舶にとっては重要なものである。
そしてこれらは海図に代表される海洋情報業務、灯台に代表される交通安全業務なのである。
また、「宗谷」に始まった南極観測、「しんかい」に始まった海洋調査など、その後海上自衛隊や、海洋科学技術センター(現海洋研究開発機構)に引き継がれた業務もみな、海上保安庁がそのさきがけを努めたものである。
その規模
平成16年度における海上保安庁総職員数は12297名(うち女性340名)
日本の国土面積は、約37万m2であるが、領海と排他的経済水域(EEZ)をあわせると、447万m2あり、国土面積の約12倍ある。
これを巡視船艇(361隻)1隻あたりに換算すると、東京、千葉、神奈川、埼玉の4県を合わせた広さの海域を担当することになる。
警察職員は全国267,599人(平成12年度)で、国土面積あたり1.38km2/1人で、海上保安庁の場合、担当海域あたり365km2//1人となり、約260倍の差がある。
もちろん、陸上での犯罪件数の差や、頻度なども加味する必要があるため、260倍の差そのものの問題があるわけではない。
その予算
平成16年度における予算総額は、1696億円。
このうち人件費は982億円、船舶建造費は99億円、航空機購入費は53億円、航路標識整備費は56億円、一般経費等が506億円である。
一般経費等のうち、約半分は運行費(燃料費、修繕費等)が占める。これは船舶航空機を使用して業務を遂行するため、維持費とも言うべき経費である。
燃料費は警備救難業務遂行のための船舶運航の信頼性確保のため、高性能機関を搭載しており、その能力発揮のために高品質の燃料が必要とされているためである。
船舶航空機の調達に関しては、基本的に単年度で完結せず、後年度負担が存在するため、今年度予算=今年度就役を意味しない。
単純な比較は意味がないが、よく引き合いに出される例として、海上自衛隊の最新鋭イージス護衛艦の価格が1500億円であるという。
この価格は、船体価格以外の、ミサイルシステム価格が超高額であり、また、日本の防衛という見地から、必要なものではあるが、単純に金額のみ比較すれば、1隻の予算で海上保安庁の1年分ということにはなる。
海上保安庁の船舶は、基本的に商船構造であり、ミサイルや砲弾をやりあう艦艇とは丈夫さが異なる分、建造船価は安い。そしてまた、高額な戦闘兵器を搭載するわけではないから、装備品の価格もそれほどではない。
任務の性格上、比較的建造価格の高いとされる、高速特殊警備船「つるぎ」型の船価は23億円とされ、総トン数220tであるから、トン当たり約0.1億円となる。
イージス護衛艦の場合、船体価格そのものは約500億円で、排水量約7500tであるから、トン当たり約0.07億円となる。
これは単純比較であって、大型船舶のほうがトン当たりの単価が低いとか、船価に含まれる範囲とか、条件はさまざま含まれている。
しかしながら、船舶建造費99億円では、約1000t分の船舶しか調達できないわけで、船齢20年を超える船艇(総数の約1/3)の代替に対しては、極めて大きな問題が残っている
海上保安庁 5つの使命
1.治安の維持
海上保安庁は、海上におげる犯罪の予防及ぴ法令の励行を図ることを任務としている。つまり、海上保安庁は海の警察機関でもある。
「海洋法に関する国際連合条約」(UN0LOS)に関ずる関係法令が整備され、平成8年(1996)7月同条約は発効した。
これによって領海基線に直線基線が採用され、また、接続水域及ぴ排他的経済水域が設定されて海上保安庁が監視取締りを実施ずる水域が大幅に拡大した。
徹底した監視取締り体制で、海外から押し寄せる事案などに対応している。
国際化・巧妙化の一途をたどる海上犯罪。我が国における平和・秩序・安全を守るためには、海上からの徹底した監視取締りが不可欠で、海上保安庁では、密輸・密航や不法操業などの犯罪を海上で未遂に食い止め、法令の励行を促し、海上における治安の維持に全力を上げている。
2.海上交通の安全確保
東京湾や瀬戸内海など、日本の周辺海域は世界的にみても船舶交通の輻輳する海域である。
資源や輪出入貨物を運ぷ大型タンカーやコンテナ船、国内物流を支えるカーフェリー・内航貨物船、それに加えて漁船、プレジャーボート等、大小様々な船舶で混雑している。
船舶交通の安全を確保するため、世界共通の基本的な交通ルールである「海上衝突予防法」があり、他にも「海上交通安全法」と「港則法」が定められている。
海上保安庁ではこれらの法的な規制による緻密な安全対策を講じるとともに、「海上交通情報機構」を開設し、航行船舶への正確な情報の提供、的確な航路標識の設置、安全な航行管制を実施している。
また、海難防止指導やマリンレジャー事故防止のための活動にもカを入れている。
3.海難の救助
日本の周辺海域で発生する海難に対する救助体制は、海上保安庁が発足してから総合的に機能するようになったが、遭難を知った他の船舶が救助に向かうという古来からある船舶間のGood-Seamanshipと、国・地方自治体の関係機関によりそれそれの所掌事務の範囲で行われていた。
昭和60年(1985)海上における捜索及ぴ救助に関する国際条約(SAR条約)が発効してからは、海上保安庁に連絡調整本部を設置するなど、海上保安庁が中心的役割を果たしていくことがさらに明確になった。
いつ発生するかわからない海難に備えて、海上保安庁では巡視船艇・航空機を24時間体制て配備しており、転覆・火災、船舶内からの人命救助などの特殊海難については、高度な救助技術を有する特殊救難隊が対応している。
そのため、迅速に捜索救助を行うための体制を整えている。
4.海上防災・海洋環境保全
災害に迅速に対応し、美しい海洋環境を守るための活動を行っている。
地震や水害などで陸路が寸断された際に欠かせない、海上からの救助・救難活動。海上保安庁では、自然災害の発生にも24時間体制で備えている。また、海洋汚染の監視取締りや海洋環境保全思想の普及を行い、海洋環境の保全に努めている。
「災害」には地震、風水害等の自然災害のほか、大規模火災、大量の油流出事故、放射能漏れ事故も含まれており、その対象は多様である。
船舶が大型化するにつれて大規模な二次災害の発生も予想され、海上防災は重要な業務になってきている。
また、廃棄物の不法排出や不法投棄等の監視・取締りを行い海洋環境を保全していくことも海上俣安庁の重要な業務である。
5.国内外機関との連携・協力
多様化、国際化する海上保安の動向を踏まえ、幅広い連携・協力関係を構築している。
国際的な海上犯罪や、広大な海域に及ぶ捜索救助活動、地球規模での海洋環境保全など、幅広い分野にわたる海上保安業務を的確に遂行するためには、国内外機関との連携・協力が必須です。海上保安庁では、海外研修員の受入、専門家の派遣や諸外国との積極的な意見交換を行うなど、グローバルな海上保安業務を遂行している。
大型タンカーからの大量流出油事故、地球温暖化など国際的な協力によって対策を推進していかなげれぱならない海に関する問題が数多くある。
海洋国家であり、資源のほとんどを海外に依存する経済大国日本は、国内諸機関との幅広い連携・協力関係を構築する一方、世界各国と積極的協カ体制を築いていく必要がある。
海上保安庁では、関発途上国からの各種の研修員を受げ入れるとともに、要講に応じて各国に専門家を派遣しており、海上保安業務や関発調査事業にも参画している。
また、海上保安庁では「国際緊急援助隊の派遺に関する法律」に基づき、海外で大規摸な災害が発生した場合に、特殊救難隊等の人員の派遺及ぴ資材その他の物資の輸送に迅速に対応できる体制を整えている。
新規作成日:2005年5月7日/最終更新日:2005年4月12日